大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和家庭裁判所 昭和42年(家)265号 審判

申立人 水田虎一(仮名) 外一名

未成年者 河本康彦(仮名) 外一名

昭和二三年四月一七日生

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立の要旨は、

申立人等は、昭和一九年二月三日婚姻し、肩書住所で同居して夫婦としての共同生活を営み、その間に長女公子(昭和二〇年八月二三日生)長男勝雄(昭和二二年二月一〇日生)二男信雄(昭和二九年二月一六日生)が出生した。申立人虎一は、婚姻当時から水田興業株式会社(以下水田興業と略称する)を設立して、自ら社長となり、住所の近くに事業所を設けて縁故関係者数名ないし七、八名が役員および従業員となつて、消火器類の販売業を営んでいるものであつて、資産として、住所および事業所の敷地である宅地五〇坪、借地二八〇坪、住宅三〇坪、事業所七二坪、アパート四五坪および預金二〇〇万円を所有し、月収一三万円をあげているものである。

一方養子となるべき者河本康彦は、前記水田興業の専務取締役をしている河本てるの子であつて、母てるおよびその子京子(昭和二一年四月一日生)と共に水田興業の事業所内の住い部屋に居住しているが、昭和四二年三月高等学校を卒業する予定であるが、これまで通学のかたわらアルバイト的に水田興業の仕事の手伝いをしてきた関係もあるので、卒業後は、水田興業の従業員となつて仕事に専念することになつているので、いつそ養子縁組をして、申立人等と親子になつて仕事をさせることが、康彦のために励みになることである。

よつて、本件申立におよぶ、

というのである。

審理の結果によれば、前記の事実をすべて認めることができる。そして、養子となるべき康彦自身およびその母河本てるも、本件養子縁組について、これを承諾している事実を認めることができる。

そこで、本件養子縁組を許容すべきものかどうかについて審按するのに、

記録編綴の大宮市長作成の戸籍謄本、幸手町長作成の戸籍謄本、家庭裁判所調査官作成の調査報告書の各記載および申立人等審問の結果によれば、養子となるべき者康彦の母である河本てるは、単に水田興業の専務取締役というだけに止らず、その以前から申立人虎一と懇の関係にあつて、その関係は今日まで続き、いわゆる妾の関係にあつて、康彦はてるの連れ子であり、申立人虎一とてるの間には昭和二七年一〇月二六日富土子が出生した事実(富士子は妻である申立人葉子の二女として届出られ、戸籍上そのように記載されている)を認めることができる。

そうなると、さような関係にある康彦を養子とするについて、妻である申立人葉子の真意を慎重に探究しなければならないことになる。申立人葉子および被審人水田公子を審問した結果によれば、申立人葉子は夫である申立人虎一が前記認定のように、河本てると懇の関係になつたことを、そのころ知つて、夫虎一に対して同女との関係を断つように懇願したが、虎一によつてこれを拒否され、大いに衝撃をうけたが、さりとて、離婚にふみ切る決心もつきかね、夫とてるとの関係を黙過するのやむなき状態に追いこまれ、ひたすら、隠忍して過すうち、昭和二七年一〇月二六日てるの出産した虎一の子富士子を夫婦間の二女として届出することを承諾させられ、爾来夫虎一から生活にこと欠かぬだけの生活費の支給をうけていたとはいえ、昼はてる方で、夜は帰宅して寝むだけという夫虎一の変則な生活に対してがまんを重ねて過してきたところ、今回またまた、申立人虎一から康彦を養子にすることに賛成せよとの申入れをうけ、心にいたく抵抗を感じながらも、生来気が弱く、生活のすべてを夫に依存している妻として、夫の意思に逆らうこともかなわず、不本意ながらこれに従う意思を表明しているものである事実を認めることができる。

右認定の申立人葉子の意思は、本件養子縁組の意思に瑕疵があるものとはいえないとしても、さような立場にある申立人葉子の真意を見逃すことはできない。

一方、養子となるべき者康彦の立場から考えても、審理の結果によれば、申立人等方には、前記の三人の子女がおり、現在いずれも申立人等と同居して、長女公子は○○銀行に勤務し、長男勝雄は○○大学に通学し、二男信雄は中学校に在学中であること、康彦は現在申立人虎一を父と呼んでいるというが、養子縁組後は申立人等と同居することは予定されていないこと、申立人虎一は現在のところ別に将来康彦を水田興業の後継者とするまでは考えていないことなどを認めることができる。

そのような事情のもとに、康彦が申立人等の養子となることは、かりに康彦が申立人虎一の親族となり、その相続人たる地位を取得することを考慮に入れるとしても、他面、康彦が申立人虎一の養子となることによつて、労働基準法関係の制約を外される結果となることを思えば、本件養子縁組は到底、康彦のための福祉となるものと認めることはできない。

以上、説示のとおりであるから、本件養子縁組は許容すべきでない。従つて、本件申立は理由がないからこれを却下する。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 岡岩雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例